山室 信一(やまむろ しんいち、1951年(昭和26年)8月23日 - )は、日本の歴史学者・政治学者。専門は近代日本政治史、近代法政思想連鎖史。京都大学人文科学研究所教授。
最初の著作『法制官僚の時代』で、「模範国」と「準拠理論」という概念を提示して近代日本における国民国家形成と学知の導入の密接な関連性を明らかにして以降、落語や講談などの大衆演芸と法政思想との関連にも光りを当てるなど従来の見解にとらわれない歴史像の展開を試みてきている。
その視点は満洲国を始めとする帝国と植民地とを「異法域結合」の統治空間として統合的に捉える「国民帝国」論の唱導へと広がり、そこでもまた「統治様式の遷移」・「統治人材の周流」、「統合化原理」・「差異化原理」の相反ベクトルなどの分析軸を提唱している。さらに、アジアという空間を思想課題としていかに捉えるかという問題意識の下に、「基軸」・「連鎖」・「投企」という作業仮説を設定して独自の空間学を創り出そうとしており、その体系化に向けて「空間形成」や「空間心性」を主題とした研究を進めている。
山室の研究スタイルは、地を這うような史料の博捜の中から独自の分析概念を案出し、新たな知見の地平を切り拓くという学問的な営為を一貫して維持し続けている点にある。こうした一見すれば地味な作業は、欧米から受容した枠組みや理論を当てはめることが優先される日本の学界や出版界では、必ずしも受け入れられてはいないように見受けられる(ただし、著作の殆どが授賞の対象となっている)。しかし、韓国・中国・台湾などではその成果が注目され、韓国では主要著作・論文の殆どが翻訳出版されている(840頁近い『思想課題としてのアジア』のハングル訳は14年の歳月をかけて2015年に刊行が予告されている)。台湾でも国民帝国論や思想連鎖論をテーマとした国際シンポジウムが中央研究院や台湾大学などで開催されており、東アジア各国での講演や集中講義も毎年行われている。
なお、『キメラー満洲国の肖像』の繁体字による中文訳刊行も予告されており、その英訳版を含めて満洲国に関しての研究において、山室の業績は世界的に見ても共通の前提となって議論が進めれている。
さらに、近年の第一次世界大戦に関する研究では日本の係わり方を2つの実戦と3つの外交戦の複合戦争として捉える見方を示し、その成果は英語・フランス語・ドイツ語・ハングルなどによって翻訳・刊行されている。
このような幅広い関心をもった研究スタイルを持続できている背景には、京都大学人文科学研究所の共同研究による切磋琢磨が大きく与っているものと考えられる。
同研究所のHPによれば、9年間にわたって続けられた「第一次世界大戦の総合的研究」成果は、岩波書店から『現代の起点 第一次世界大戦』全4巻として刊行されたほか、山室の『複合戦争と総力戦の断層』などが人文書院からレクチャー・シリーズとして既刊17冊を数えて、なお続刊が予定されている。人文研が創始し、その「お家芸」とされる共同研究におけるオーガナイザーとして、次世代の研究者と相互啓発のプラス面が出ているのであろう。その第一次世界大戦の共同研究を承けて、現在は「現代/世界とは何かー人文学の視点から」が開催されている(京都大学人文科学研究所研HPに依る)。
なお、特筆・追記すべきこととして、明治期の雑誌・飜訳書のマイクロフィルム版史料集成や岩波書店刊行思想大系などの編集・注記そして中野目徹・筑波大学教授と10数年の時日を費やして刊行した岩波文庫版『明六雑誌』全三巻など、史料の蒐集と複刻という事業に永年従事していることも貴重な貢献であると思われる。
1951年生京都大学の教員京都大学人文科学研究所の人物日本の政治学者日本の歴史学者日本近現代史学者東京大学出身の人物東京大学社会科学研究所の人物東北大学の教員熊本市出身の人物紫綬褒章受章者インテリ成功者
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